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ピアノコンクールで上位入賞する方法:④選曲 【その2】


※④選曲はシリーズになっておりますので、宜しければ④選曲【その1】もご覧下さい



1.子供さんがまだ小さな時(中学入学前)

  • 我が子は「技巧派」? それとも「聴かせる派」?

 その昔、発表会やコンクールで心に響く涙を誘う様な美しい音色のピアノ演奏を聴く度に、私は会場でよく溜息をついていました。「どーして我が子はこういった情緒溢れるメロディーを奏でられないのかな…」


 ピアニストは本当に大雑把に分けると「じっくりと音色を聴かせる系」と「アスリート系(肉体を痛めつけるような反復練習を厭わない『超絶技巧』大好き派)」がいるそうです。言わずもがな一流のコンサートピアニストともなればどちらのスキルも兼ね備えているものですが、それでも特に昔は「モーツァルト弾き」だとか「鍵盤の獅子」等と名前の前にそのピアニストをイメージする代名詞が付いて呼ばれるなんてこともありました。


 リトルピアニストの皆さんも小学生くらいになると「物悲しくも美しい曲が得意」とするお子さんと、「超絶技巧一直線」のお子さん…と、それぞれ曲に対する好みが選曲などにも段々出てくることがあります。小さい頃から知っているお友達が、一体どちらの『派閥』に歩みを進めていくのかを傍から眺めているのは大変興味深かったのを思い出します。我が子「モーたん」はアスリート系でした。本人が好んで聴くのは「短調の涙を誘う曲」なのですが、自分でそういう曲を弾いても情緒も何もあった物ではなく「あっけらか~ん」とした曲になってしまうので、仕方なく演奏するのは専ら「ドンガラガッシャン」的な曲でした。


 ピアノは鍵盤楽器と分類されているようですが、私からすれば、これは打楽器!鍵盤を抑えた瞬間から音が徐々に消えてなくなってしまうという、楽器としてはかなり致命的な欠陥を持った楽器を使って、誤魔化し誤魔化し音を繋げていかなくてはならないのですから、ピアニストに課せられたこの罰ゲームの様な試練は凄まじいばかり。そんな欠陥楽器を携えて美しく流れるようなメロディーを奏でるということは本当に難しいことです。それに加え、まるでピアノが聴衆の心に歌いかける様な音を出すことが出来るのは…

  1. 作曲者のその曲に対する想いを充分理解していて…

  2. 人間の悲しくも複雑な心の機微を熟知しており…

  3. 加えてその感情の再現をピアノを使って表現する…

…という恵まれた才能を持っているピアニストのみであり、加えて「悲哀」「悲愴」「無念」「虚無」「追慕」の様な複雑な感情を、まだ実際に経験していないであろう小さな子供がピアノで表現できるというのは将に奇跡! …ということで、人を感動させる美しい音色を操ることが出来るお子さんは「天賦の才に恵まれている」ということで、コンクールでも非常に高く評価されるのは推して知るべしです。

 しかも、このタイプのお子さんの凄い所は、こういった心の琴線に触れるような演奏は先生やプロの演奏の真似をしても絶対に表現できないという事。つまり、その物悲しいメロディーは本人の心から指先を通して出てくるわけで、これが素晴らしい!練習のみでは培えないこの才能は生まれた時に神様から授かった物なのでしょうが、そんなものを持っていない凡人は悲しくなってしまいます… 興味深いのは、小学生クラスのコンクールでは総じて「聴かせる系」のお子さんの入賞が多い気がしました。我が子はこのタイプのピアニストさん達には当時全く太刀打ちできず、本当にその才能には度肝を抜かれることが多かったです。 



 一方モーたんが所属する『アスリート系』ですが、このタイプの曲でコンクールに参加した場合、小学生の時にはなかなか入賞出来ませんでした。誤解を恐れずに言えば「子供サイズ」というものがないピアノという楽器は普通の小学生には大き過ぎます。そんなオーバーサイズな楽器を使って、大人の為に作曲された高い技巧を要求される曲を弾くのですからどうしても無理が出ます。大人でも大変な跳躍は、子供にとっては「大跳躍」ですし、オクターブの音を小さな手でギリギリに掴んで連打を繰り返せば、まだ成長段階でありしっかりとしていない肩・腰・腕にも不必要に力が入ります。しかも「聴かせる曲」に比べて音符の数がけた違いに多くなる傾向がある技巧曲ですので、譜読みにも反復練習にもかなり時間を要します。


 モーたんが1曲を完全に仕上げるまでにかかった時間は数か月から1年以上に渡ることも有り、レパートリーをドンドン増やさなくてはならない大切な小中学校期にも関わらず、人前で演奏できるレベルにまで仕上がった曲の数はなかなか増えていきません。肝心な「曲の仕上がり具合」は…と言えば、難しい曲を何年も前倒しで無理やり練習して仕上げる為、プロの演奏と比べれば「この曲がこの年齢で弾けるなんて凄いですね。数年後が楽しみです」と評価されるに留まってしまい、苦労している割には『収穫までにかなり時間がかかる』という経験をしました。


 こんなことを言うと、アスリート系のお子さんは長い間全く日の目を見ないように思われるかもしれません。ただ、コンクールの中には『完全に弾けてはいないけど高難易度の曲を弾いた方が入賞しやすい』コンクールも結構あったりします。技巧的な曲を弾くのが得意である方は、早い段階でこういったコンクールを探して「成功体験」を経験されることをお勧めします。


 ところが、ところがです!中学生カテゴリーになるとこの二つの派閥の力関係が突然変わる「ターニングポイント」に遭遇することがあります。


 アスリート系のお子さん達が充分に実力をつけ、それまでの地道な『筋肉強化訓練』で培った強靭な指とテクニックをバネにしてプロのピアニストを圧倒するような凄まじい演奏で頭角を現す時はある日突然訪れます。今まで評価されてきた「聴かせる系」の演奏を押しのけて徐々に入賞するようになってきます。そうなると不思議なもので、音色の素晴らしい曲で上位入賞常連であったお子さん方がコンクールに出場しても以前の様に結果を出せなくなってくるのです。

 

 勿論、技巧的な曲ばかりでプログラムを組んでコンクールに参戦しても「下品」と評価されることも多いですので、どちらの「派閥」に所属していようと相手側の曲も練習する必要があるのは言うまでもありません。ただ、お子さんがどちらのタイプであっても、最初は得意な分野の曲で勝負をしつつ、数年後に来るであろう「ターニングポイント」に向けて、違ったタイプのコンクール用の曲を準備していくことも重要になると思います。



  • 現代曲を積極的に入れていく 

今は割とプログラムに入れてくる方が多いように思いますが、現代曲やジャズ系の曲も積極的にレパートリーに入れることをお勧めします。


 長時間コンクールで同じような曲ばかり聞いていると審査員も疲れてきて判断があやふやになることもあります。特に参加人数が多く、長丁場になると判っているコンクールに参加した場合で、自由に演奏曲を選ぶことが出来るのであれば、敢えて印象に残る曲を弾くことはポイントを上げる要因になります。現代曲は解釈が難しいので小学生の時は敬遠されることもあるかもしれませんが、「え?何、この曲面白いな」と審査員に思ってもらえると「曲が面白く個性がある=ピアニストにその面白さを聴衆に伝える技量がある=高印象」ということに成るので、これは絶対にチャレンジする価値はあります。


 でもこれは建前の理由。本当の理由は…(皆さんもお察しの通り)


間違っても審査員に分からないから

 

 モーたんの同じ門下の先輩がとあるコンクールで現代曲を弾いたのですが、緊張の為、演奏途中で曲が思い出せなくなり『頭白紙状態』に。それでもその場しのぎで忘れた部分の曲を作り、最後まで弾ききったことがありました。その度胸と即興の才能に感嘆しましたが(後で真実を聞くまでそれが即興演奏だとは全く気が付きませんでした)、会場で演奏を聴いていた先生は心臓発作が起きるかと思ったそう(笑)。因みにその先輩は難なく本選に進まれました。今では作曲の方に進まれています(やっぱり!)


 『現代曲最強説』ですね!


 現代曲と言っても、わざわざ難解な曲を弾く必要は全くないのですが、特にギミック(奇をてらった仕掛け)と取られる通常のピアノ演奏ではない技巧…例えば肘や額で鍵盤を叩いたり、立ち上がってピアノの弦を直接触って演奏をしたり…ということは、コンクールでは「ピアノが痛む」「ギミックだ!」という理由で嫌われることもあるので避けた方が無難です。


 モーたんは「Haiku」という曲を弾いたことがあります。作曲者は「短い詩である」俳句を表現して演奏時間たった2秒!最初からトップスピードでペダルを踏んだまま加速していき、2秒後には音が全部混ざって爆音になります。その最後の音を余韻として会場に響かせます。ピアニストは音が消えるまで微動だにしてはいけません(という指示が楽譜に書いてあります)。これこそ俳句ですね!ところが最後の音を弾いてから凍り付いたようにステージ上で動かないモーたん(実は『余韻』の作業中)に審査員席から声がかかりました。


忘れちゃったかな?次の曲に行ってもいいよ!

 「…これは2秒の曲なんです」と言い訳する訳にもいかず惨敗。これは選曲ミスですね…(笑)


 現代曲の中にも有名&人気作品というものがいくつもあります。通常であれば選曲で被る確率が少ない「自由プログラム」形式、しかも余り選ばれない筈の『現代曲』なのに何故か被った経験があります。その曲はコープランド作曲の「猫とねずみ」。比較的覚えやすいメロディーで、猫とネズミの息つく暇もないスリリングなドタバタ劇が展開され、曲の最後では憐れなネズミはどうなってしまうのか…と、手に汗握るユーモアたっぷりの曲です。


 モーたんがこの曲を演奏したコンクールでは参加者が20名強くらいの小さなコンクールであったにも関わらず、国籍の違う3名がこの曲を選曲。この曲で失敗したらこの曲を3度も聞くことになる審査員からすれば「この3名の中では最下位」となり、それだけで心証は悪くなってしまう為、入賞レースから蹴り出されることに気づいた参加者達。突然『3人だけのサドンデス』がスタート! 熟考に熟考を重ねた末の選曲結果が招いたこの修羅場… コンクール終了後、参加者とその家族が集まった時に、皆で大笑いしました。


 出来れば人気曲は避けた方が無難かもしれません(笑)




 


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