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「我が子にはピアノの才能があるか?」という話



「長女は今△歳で、現在『xxxx』という曲を弾いています。昨年は『△〇◆✖』コンクールに入賞しました。長女はピアノの才能があると思いますか?」

というような質問をネット上で目にしたり、コンクール会場などで耳にしたことがあります。大体はその道の権威者の方にご意見を伺っているわけですが、多くの場合


「実際に演奏を聞いたことがないので何とも言えません。お嬢さんのピアノの先生はどう仰っていますか?」
「まだ小さいのですから、そんなこと気にしないでもっと伸び伸びとピアノや音楽に触れさせてあげて下さい。」

という感じのアドバイスで締めくくられることが多いようです。ま、そうですよね。その道の権威たるもの、迂闊に無責任なことは言えませんから…


 ですが、これは『ある状況』に置かれている親御さんにとっては非常に重要な質問であり、上記のような当たり障りのない答えでは「仰られることは理解できるが、こちらが望んでいる回答ではない」と思われるかもしれません。


 その状況とは…


親として『我が子にはピアノの才能がある!』と確信に近いものを感じているが、将来的に音大入学も視野に入れ、子供をピアニストの道に進ませるべきか否か悩んでいる状況

 です。


 結論から言えば、その子の才能が『比類なきまでにズバ抜けて』いれば、多分ピアノや音楽全般にある程度慣れ親しんでいらっしゃる方でしたら『才能の有無』の判断は比較的簡単に出来るのではないかと思います。このレベルに達していらっしゃる子供さんの演奏は、もう聴き手の主観云々のレベルを遥かに超えていらっしゃいますので、『演奏スタイルに対する個人的な好き嫌い』で第三者が間違った判断をすることは先ずないのではないかと容易に想像できます。

 

 では『ズバ抜ける』とまではいかないが『普通の才能(これはこれで変な言い方ですが)』の場合はどうなのか… 多くの場合、親御様が悩まれるのはこのグループに入るお子さん場合かと思います。


 ある日、自分の子供の演奏に対して「もしや、これは…」と確信に近いものを感じたとします。ただし、この時点で周囲に「ウチの子、ピアノの才能があるみたいなの!」と言いまわると、単なる『親バカ』と思われるだけですし、冷静になって考えてみればみるほど、実際にその可能性も無きにしも非ずなので黙っておいた方が良いかもしれない…と、一旦落ち着こうと考えます。しかしながらこれは『自分の確信の否定』を自分自身に強いる結果になってしまうこととなり、ストレスが溜まり、悶々とする日々が続きます。

 

 「才能があると思われる証拠を出せ」と言われても、演奏自体はまだまだ拙く、悲しいかな小さい手ではリストの超絶技巧エチュードなどを弾けるわけもなく(ま、これは「じゃ、手が大きかったら弾けるのか?」という類の曲では全くありませんが…)、他の人に演奏を聞いてもらっても「元気があっていいですね」「年齢の割には凄く上手ですね!」のお世辞の一つも貰う程度。


 親御さんご自身が音大卒だったり、ピアノ教師だったりと、専門家として音楽に携わっているのであればその限りではありませんが、多くの場合、親が『ウチの子凄い!』と思う時、それは、自分がピアノを習っていた時の経験であったり、学校のお友達や一緒に習っていた中で特に上手だった子の演奏との比較に基づく場合が多いのではと愚考します。自分にとっての『確信』とはいえ、『傍からは親バカと思われるに違いない…』という気持ちは、この時点では常に親御さんの頭の中にあるのではと思います。


 子供が大きくなるにつれ、演奏はだんだん洗練されたものとなり、自分でも『親の欲目』とは思いながらも、以前にも増して「おっ、これは…」と、演奏がきらめく瞬間を感じるようになります。他の子の演奏と比べても我が子は『かなりいい線いっている!』。この辺りから周囲の大人やピアノの先生からも、「わぁ、〇△ちゃんピアノ上手だねぇ~。将来はピアニストかな?」などと、本音ともお世辞とも取れる言葉が出てくるようになります。親としては、「またまたぁ~そんなぁ~。無理ですよ、うちの子じゃ~」と返しますが、こんな嬉しい誉め言葉を頂ければ満更でもない訳で、それが引き金となり、今まで制御していた『不確かな確信』が暴走してしまうケースもあるかもしれません。


 『暴走』とはつまり、『それ』が本当の才能かどうか分からないまま、全力でプロのピアニストを目指してしまうこと。

 持てる時間の殆どを厳しい練習にあて、専門家からのアドバイスを求め国内外を行脚し、『上位入賞』という結果を求めてコンクール巡礼をし、トップクラスの音大入学を目指し、海外留学…デビュー… そしてゆくゆくはコンサートピアニストとしてカーネギーホールでの演奏…


 夢はドンドン膨らみます。


 夢を実現する為に親子二人三脚で邁進(まいしん)するのは本当に素晴らしいことだと思います。ですが、よく知られているように音楽のプロフェッショナルの道はとても険しく、加えて競争が激しいものだと言われており、大切な我が子の将来の選択肢を小さなうちから大した確証もないまま極端に狭めてしまうことは避けた方が良いのは道理。そうなってしまう前に『我が子の才能』ということに関し、『アクセル全開でスタートする』前に、今一度いくつかの点を真剣に考えてみる必要があると感じます。例えば…


  • 子供は音楽の高みを目指せるだけの精神的・身体的・体力的な資質を兼ね備えているか

  • 子供はピアノが大好きか

  • 子供は本当にピアニストになりたいと思っているか

  • 子供はピアノ以外の分野でも才能があるのではないか。それらの才能よりもピアノに対する情熱・素質は勝っているのか

  • 子供がピアノの道に進む場合、経済面も含めて家族一丸となって長期間、最後までサポートする覚悟はあるか


 …今、過去を振り返って感じるのは(大変僭越ながら自身の限られた経験からですが)、ピアノの才能のあるなしは、ピアノが上手に弾けるというのは当然として、加えて上記の条件や環境が全て揃った上で初めて成立するのではないか?ということです。その他にもコンサートピアニストになるには『良い先生に巡り会う』『強運の持ち主である』『敏腕マネージャーが付く』など数多くの条件はあると思いますが、上記の条件は、子供がピアノで生計を立てると決意し、夢に向かって突き進む前の最低限の準備であり、この中のどれか一つ欠けても夢を叶えることがかなり困難になるのではと感じます。

 子供がピアノを始めて数か月ほどで英雄ポロネーズが完璧に弾けるようなレベルであれば、モーツァルトの父君にならい、我が子を『神童』としてプロデュースすることも出来るのでしょうが、残念なことに多くの場合そこまではっきりと才能は現れません。


 我が子モーたんの場合、『あれ?この子はピアノに向いているのかな?』と感じたのは、子供がピアノを習い始めて1か月程した時でした。最初に『あれ?』と思ったのは上達の速さだったと思います。


 「あ、ここの部分は(私が小さな頃は)本当に苦労したなぁ~」と思い出に浸りながら教え始めると、モーたんは難なくこなします。次の曲に進み「そうそう、これは難しかったなぁ~」…ところが、そんな自分にとっての難曲も、我が子は数回も弾けばサッと弾いてしまったのです。


 これだけ聞くとどこぞやの才子の話の様でありますが、我が家のこのエピソードには勿論、手品よろしく『種や仕掛け』があります。


 ピアノを習い始めてから毎日1時間。2か月後には朝・午後・夜の様に何回かに分けてはいましたが、練習時間は一日3時間に達していました。『親バカかもしれないが、この子はピアノの才能があるかもしれない』と自分勝手に暴走し、かなり強引に練習をさせていたのです。例えば一日30分の練習をする子供がいたと仮定すると、その6倍近くも練習をさせていれば、ピアノの進度も早いに決まっています。


 先生から言われたこと以上に練習をして着実に上達する我が子を先生は「これは凄い!」と手放しで褒めてくださる。そして親はその言葉に舞い上がり、子供は子供で、母親が喜んでいるのを見て嬉しく、辛くても親の為に頑張る… その繰り返し。


 今から思えば、我が家の場合は『我が子にはコンサートピアニストを目指すほどの才能がある』という確信は最初からグラついていたと感じます。それどころか、無理に練習をさせていたことは百も承知だったので、演奏を褒められ、コンクールで結果が出せたとしても、大喜びしている反面、常に心のどこかでは『高学年になり…そして中学校に行き、学校の勉強や部活が大変になりピアノの練習の為の時間がこれまでの様に取れなくなればそれで終了。』と冷静に捉えていました。


 例えば、『塾に行かせて学校で習うよりも先の範囲を事前に勉強させることで学校の成績を上げる方式』とでも言いましょうか…。我が子は、同級生が学校で足し算を習っている時に、「私は九九が出来る!」と、先取りで得た知識をアピールすることで若干優位に立っていただけ。『先取り(1日数時間の練習)』が出来なくなれば、非凡な演奏を求められるコンクールで上位入賞をすることは出来ないでしょう。


 勿論、その先取り部分の利点を生かし、更なる躍進に繋げるお子さんも大勢いらっしゃいます。ピアノという楽器の性質上、身体がまだ出来上がっていない小さなうちから身体をピアノ演奏に向くように作り上げていくという点で、多くの場合小さい時から始めるある程度の厳しい練習は上達には必要不可欠だという専門家の方も多いようです。また『小さい頃から褒められる』というポジティブな経験は、その子の素質を伸ばす効果があるという研究結果もあるので、『先取り方法』が間違いであるとは全く思っていないのですが、才能を見分けるという点においては、『進度が早い』というのは、それだけでは余り役に立つ指標ではないのかもしれません。


 『進度が早い=才能』とは単純には言えないというのであれば、他のお子さん方はどのような才能の片鱗を見せていて、それ故に音楽の道に進まれたのか…というのは私自身の興味でもありました。


 モーたんが通っていた学校(音楽専門土曜学校)やコンクールで、各地区で(或いは既に全国区レベルで)『神童』と謳われているお子さんの親御さんとお話をする機会が数多くありました。そこではなかなかの『神童エピソード』を伺うことが出来、大変勉強になりました。その中には


  • 7歳で(ピアノ講師になる為の資格の一つと言われている)英国王立音楽検定のグレード8に合格した

  • 最年少で✖✖✖コンクールに優勝した

  • 1回曲を聞くと、その曲を即座にピアノで再現することが出来た

  • 初見で目の前にある楽譜をスラスラ弾くことが出来る


…確かに、まだ小さな子供がこれらの技術を幼少期に習得していたのであれば、親は何の疑いもなく「我が子には才能がある!」と、かなり早い段階で確信することが出来たと思いますし、「では、この子に何をしてあげるのがベストか」という将来の選択肢を考える際にも自信をもって選ぶことが出来ると想像するに難くありません。


 う、羨ましい…(笑)


 …でも、よ~く考えてみると、例えば「最年少でコンクールに優勝」だの「7歳でグレード8に合格」等の例の場合は、それ以前のどこかの段階で親が『鞭を入れて練習三昧の日々』を送っていた筈で…。そうでなければ、先ずそんな結果は出ないですよねぇ~。ですが、中にはアルゲリッチの様に『本物の神童』だったがゆえ、練習しなくてもあっさりコンクールに優勝してしまう方も実在するので真実は闇の中ですが…


 才能の有無は本当に判断が難しいと思う今日この頃です。



 


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