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【世界トップの音大】8歳からピアノを英国王立音楽大学付属音楽学校で習ったら…

「時間割は?」「授業料はいくら?」「日本人も受験できるの?」そんな質問に答えながら、イギリスの音楽学校事情をご案内します。


 


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 「世界一の音大は?」と問われれば、ジュリアード、カーチス、モスクワ、パリ、ウィーン…といった著名な音楽院の名前がゾロゾロ出てくると思います。ですが、たぶん世間一般では「ピアノ&音楽院」というキーワードから「イギリス」という国名は出てこないのではないかと感じます。かく言う私もイギリスにその様な高名な音楽大学があったとは全く知りませんでした…💦


 世界の音楽院の実態を調査しているQS WUR Rankingによりますと、2022年のPerformance Art 部門での第一位はイギリスのロンドンにある英国王立音楽大学(RCM:Royal College of Music ※名前が長いのでこれからはRCMと表記させていただきます)。2022年だけが良い結果だったのかと言うと全くそうではなく、過去7年くらいを見ても常に世界ランキング上位3位以内をキープしているとか。

げに恐ろしきは無知なり

 イギリスの片田舎に住んでいる私は、十数年ほど前に我が子「モーたん」のピアノの先生を探していた時に「ロンドンの音楽学校だったら都会だし良い先生がいるだろう」という程度の軽い気持ちでロンドンにある2つの音楽学校のオーディションに申し込みました。当時は「音楽大学付属音楽学校」というものを全く理解しておらず、「授業料は?」「倍率は?」「合格ラインは?」などの通常であれば調べるべき基本的な事についての事前リサーチゼロ。この緊張感の欠如が功を奏したのか、RCMのジュニア部門に合格することが出来ました。因みにもう一つの学校の方はと申しますと、オーディションから数日後『お祈りメール』が届きました…(笑)


 ここでオーディションに向けての準備や合格ラインなどをご説明しますと大変長くなってしまいますのでそれはまた別のブログでお話させていただくことと致しまして、今回はイギリスの音楽学校のシステムなどをお話させていただきます。 

 

 

1.英国王立音楽大学付属音楽学校とは


 イギリスの音楽院・音楽大学には付属音楽学校(ジュニア:JDと呼ばれることもあります)があります。これは多分日本の音大付属音楽学校と同じような形態であると思います。イギリスの場合は学校によりますが大体6歳から18歳くらいまでの生徒さんが在籍しています。それらは概ね「土曜学校」。生徒さんの多くは平日は地元で普通科の小・中・高に通っています。首都であるロンドンにはこの様な音楽学校は多いですが、バーミンガムやマンチェスターの様な大きな地方都市にも有名な音楽学校があるので、音楽好きなお子さんは自分の地元に近い音楽学校に入学することが多いと思います。中にはドイツやアイルランドなどのEU圏内の国から週末飛行機を利用してロンドンの音楽学校に通うような方もいらっしゃいました。


 これらの学校の教育理念にはそれぞれ多少の違いはありますが基本的には「家庭環境に関わらず才能がある子供に専門教育を受ける機会を与える」ということ。つまりコンサートピアニストを育てるというよりは、演奏に関する高度な技術は勿論の事、作曲・音楽史・音楽理論・ソルフェージュなどを含めた通常であれば音大に行って学ぶ様なことを小さい頃から英才教育することでプロの音楽家を育てる学校なのだそうです。これは別の見方をすれば「ある一定のレベルに到達できないようであれば退学も致し方なし」ということでもあるのです。

そう、本当に「お教室」ではなく「学校」なのです(それも進学校くらい…)

 学長から落第を直接言い渡されることはありませんが、各授業の成績表は各学期毎に親元に送られますし、内外のコンクールで入賞してくる生徒さんに対する学内に於いての評価や優遇度は傍から見てもよく分かりますので、自分が置かれた状況と比べて居心地が悪くなったり、また技術の伸び悩みで落ち込んでいる時に『隣にいる優秀な同級生グループ』と比べてしまい「もうダメだ…」と、退学される生徒さんが多いのも確かです。


 そう、ここは

一日も早く自分の限界を知り、プロの音楽家を諦めて他の職業を探すことで人生の中の貴重な時間を無駄にしない為のサポートをする

とも言える学校なのです。


…ただ単に「ピアノの先生」を探していた我が家はかなり手痛い勘違いをしていたことに入学後に気づくことになります。


 さて、土曜日早朝ともなりますと、RCMがあるロンドンのサウス・ケンジントン周辺(世界的に有名な美術館や博物館、高級デパートの「ハロッズ」などが軒を連ねるお洒落なエリア)は小さな音楽家の皆さんで大混雑。最寄り駅に朝8時頃降り立つと、自身の等身大程もあろうかという大きな楽器を「ヨイショ、ヨイショ」と一生懸命運んでいる可愛らしい姿が駅から学校までズラッ~と続きます。リュックのみで手ぶらで軽やか~に歩いているのは勿論「ピアニストさん」です(笑)


 RCMはイギリスで最も権威のあるコンサートホールとして知られるクラシック音楽の殿堂【ロイヤルアルバートホール】の真向かいにあります。(実はこれがRCMに入学する最大のモチベーションだったりします)生徒さん達はこのホールを毎週目にしながら「いつかはあそこでコンサートをするぞ!」と日々練習に明け暮れているのだと思います。

 

 ジュニア部門の在校生は約400名で年齢は8歳から大学に入学するまで(18歳)。校内を歩き回ると、前髪の後退が若干気になる身長2メートル越えの髭面のお兄ちゃんや、お人形さんの様な可愛い小学校低学年の女の子もいてその年齢層の幅の広さに驚きますが、ピアノ科には在籍生徒全員が対象となる学内コンクールもある為、もう年齢なんて全く関係ない「怒涛の下剋上」状態かと思いきや、上級生は下級生の面倒をとてもよく見ていて微笑ましい「科」でした。


 RCMのジュニア部門からRCM(大学:通称「シニア」)は私が思っていたほど「エスカレータ式」ではなく、「Aレベル(日本の共通テストに相当)の成績と実技、これまでの演奏活動などを総合的に判断」して合否が決まるとのこと。ですが実際は学業成績に関しては実技が秀でていれば「不問に処す」ようですし、また、ジュニア部門の学長が直接行う進路相談の際に「RCMに行きたい!」と希望すれば、外部から直接RCMを受験するよりは合格しやすいと言われています。


 前述しましたように音楽学校では基本的に「音楽家」を育てることを目標としている為、モーたんの様に「ピアノを学びたい」と言って入学した生徒であっても「他の楽器も学んでみたら?」と入学当初の2・3年くらいは頻繁に他の楽器演奏を強く勧められました。学べる楽器もピアノ、弦楽器、管楽器、声楽…とクラシック音楽で使われる楽器のほぼ全ては学ぶことが出来ますし、中にはリコーダーやパイプオルガンの専攻もありました。ピアニストであっても最終的には「作曲」で音大に行ったり、指揮者を目指したりと、成長する過程で子供の頃に夢見ていた目標とは違う道を進むこともある為、将来の選択肢の幅を広げるという意味でも複数の楽器を演奏することを薦めるというのが建前。ですが「裏事情」はと言えば、コンサートピアニストとして食べていくことは音楽の本場のヨーロッパであっても難しい昨今、様々な楽器を演奏できた方が、プロとしても楽器の先生としてもより広域な需要に対応でき、従って喰いっぱぐれるのを防げるからなのだとか…。


 世知辛いですねぇ~。


 因みにですが、生徒さんの殆どは複数の楽器を演奏されていました。弦楽器や管楽器等を専門で勉強しているお子さんはピアノも並行して学ぶことを推奨されているのですが、その皆さんの副科のピアノのレベルはピアノ専科のそれに比べると「まぁ~それは…(モゴモゴ)」。ですので副専攻に関しては「死ぬ気で練習してこい!」という訳ではなく、ピアノに伴奏をして貰うことが多い楽器に関しては「ピアノという楽器を知っている方が有利だから」…程度の感じなのではないかと思います。ですが勿論、中にはモーツァルト宜しくピアノも弦楽器も双方ともに卓越していて、コンクールなどあればピアノと弦楽器の2つの部門で入賞する強者もいましたし、4つの楽器全てでディプロマ取得…と「神」の称号を持っていた生徒さんもいたり…。最後まで「ピアノ一本」で押し通したモーたんの様な生徒さんはかなりの少数派でした。 


 

2. 時間割


 さて、授業の時間割ですが、驚くことに在籍する全ての生徒さんの為にカスタマイズされているので、皆さん全くバラバラの時間割。学校が始まる時間も終わる時間も各々違うので、同じピアノ科だとか、同期入学と言ってもレッスン以外で逢うことは稀。ま、その「レッスン」ですら同じであることは稀ですが…。それでもお互いにランチの時間を何とか合わせたり、レッスンの待ち時間に廊下に座りこんで話をしたりして友情を育みます。

 子供についてきている親御さんは、子供さんがまだ小さいうちは校内外のカフェでレッスンが終わるのを待っていることが多いのですが、この時に同じ悩みを持つ者同士が自然と親しくなり、家での練習や学校での成績の悩み、進学や進路の悩み、入賞しやすいコンクール情報(笑)、ピアノで奨学金が貰える高校や大学などの情報交換をしたりします。これらの情報は他では得られないことが多い為、情報収集という意味でも親同士の交流は非常に有益です。また、音楽学校以外で話せば「嫌味&上から目線」と取られるようなピアノの才能に溢れる子供達の話であっても、ここでは共感を持って温かいサポートやアドバイスを貰うことが出来るので日頃の悩みも正直に打ち明けることが出来ます。 


 学校は基本的に朝8時から夕方5時までで、その間に以下の様なレッスンを受けます。これらのレッスンはオプションである副専攻のレッスンを除き、余程の事情がない限りは絶対に受けなくてはなりません。

  • 個人レッスン(主専攻:45分。追加料金で最大75分までの延長可能)

  • 個人レッスン(副専攻 ※オプション)

  • 音楽理論か作曲(1時間)

  • 室内楽(1時間)

  • コーラス(1時間)

  • オーケストラセッション(1~2時間:オーケストラに参加できる楽器を習っている場合)

日によってはこれにコンクールや、午後6時から始まるコンサートなどが文字通り「分刻み」で運営されているため、休み時間ともなれば廊下には次のレッスンに移動する楽器を持った生徒さん達で溢れかえります。

 

3.授業料とお金の話


 気になる授業料ですが、1週間1回の受講、これを1学期10回として1477ポンド。(約24万円 ※ここでは2023年2月現在の為替レート1ポンド163円として換算)RCMは3学期制ですので、年間授業料は約72万円となります(現在はとても円安なので特に高く感じますが…)。この料金に含まれているのは

  • 個人レッスン(主専攻:45分)

  • 音楽理論か作曲(1時間)

  • 室内楽(1時間)

  • コーラス(1時間)

  • オーケストラセッション(1~2時間)

なので、オーケストラに参加できる楽器を勉強しているのであれば、1回学校に行くと約5~6時間のレッスン受講で2万4千円ということになります。レッスンの値段は内容に応じて単価があり、一番高いのが個人レッスンで1時間当たり約72ポンドです(約1万2千円)。


 ピアノを「お稽古事」として考えた場合、月6万円(入学時はもう少し安かったですが)というのは我が家にとっては簡単に出せるような金額では全くありませんでした。しかも8歳で入学すればこれが最長10年間続きます。その上よく考えてみれば年に30回(30週)の授業ということは、残りの22週はレッスンが無いという事。多くの場合、学校の休暇中は生徒さん達はRCMで学んでいる先生の御自宅に通うことになります。

モチロンそれは、別・料・金

休暇中に『絶対に先生のもとに通わなくてはならない』という規則はありませんでしたので、「休み中はピアノは家で自主トレ(先生の元には通わない)」「休暇中は地元の別の先生に習う」という方もいましたが、「そんなに長い間子供一人でまともな練習できるわけがない」と、我が家は休暇中もロンドンまで個人レッスンに通っていました。(←い、痛い出費だぁ~…)

 他の出費としては楽譜。日本で輸入物の楽譜を買う事に比べれば通常価格(?)で 購入することは出来るのですが、1冊の曲集を初めから順番に練習をしていくわけではない為、特に始めたての頃は毎週のように新しい楽譜を買い揃えていった時期もありました。真新しい楽譜からは1曲だけをコンクールの為に練習しただけですぐに次の楽譜へ… 加えて協奏曲練習時には自分の楽譜とピアノ伴奏者用の楽譜、そしてオーケストラ用の楽譜も練習時に必要でしたので、月末に「あれ…今月何買ったっけ?」と思う金額になることも… 


将来的に音大を目指し始めてから「演奏技術、作曲、歴史、楽典、ソルフェージュ、聴音」等を勉強する為にそれぞれ別の先生のもとに通うよりは、音楽学校一箇所で全てを教えていただけるというのは時間の節約にもなり結果として授業料も安く済む訳なのですが、それでも今更ながら当時を振り返れば「物凄い金額を投資したんだなぁ~💦」とゾッとします。


 

4.日本人でも学べる?


この答えは「学べます」です。


ご家族皆さんで渡英された場合には「扶養家族」としてVISAを取られると思いますので問題はないのですが、お子さんだけでRCMジュニア部門で音楽の勉強をされるために渡英される場合には、RCMは土曜学校である為に学生VISA取得の際の条件である「一週間の最低授業時間数」が足りない為、他の正規の全日制の学校(中高)に所属し、そこから学生VISA取得の為に必要な入学許可書を発行してもらう必要があります。オーディションは毎年2~3月に第一次オーディションがオンラインで開催されるようですので(演奏を録画して送るスタイルの様です)、「力試しに…」と一次オーディションを受けてみるのも良いかもしれません。今年がダメでも来年、再来年…と何度でも受けられるのも魅力です。







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